最近、ChatGPTやGeminiといったAIの進化には目を見張るものがあります。文書作成からお悩み相談の聞き役まで幅広くこなし、「法律相談もAIでいいのでは?」という声も聞くようになりました。
そこで今回「AIはどこまで法律トラブルの解決に使えるのか?」を確かめるため、「少額の借金トラブル」を題材として、AI(Gemini)に相談してみました。その様子を4回(予定)に分けてお伝えします。
今回の相談事例:返してくれない「5万3,000円」
まずはAIに、よくあるトラブルの事例設定を依頼しました。
【事例:元同僚への貸金】
- 債権者(相談者): 柏木さん(30代・会社員)
- 債務者(相手方): 田狩さん(30代・元同僚、現在はフリーランス)
- 金額: 5万円(+飲み代の立て替え3,000円)
- 経緯: 「家賃が払えない」と泣きつかれ、善意で銀行振込。
- 証拠: 振込履歴と、LINEの「来月返すね」というメッセージ。
- 現状: 半年経っても返済ゼロ。それなのに田狩さんはSNSで「キャンプ最高!」「新しいMac買った!」と散財。お金を返すよう請求すると「もらったものだと思った」「3,000円とか細かすぎ」と逆ギレ状態。
5万3,000円の請求額。専門家に依頼すると赤字になる、いわゆる「費用倒れ」になるケースです。この状況でAIにアドバイスを求めたところ、次のような回答が返ってきました。
AIの回答
柏木さん、それは本当にお辛い状況ですね。善意で助けたはずが、相手の不誠実な態度やSNSでの散財を見てしまうと、怒りや虚しさを感じるのは当然のことです。
5万3,000円という金額は、柏木さんが一生懸命働いて得た大切なお金です。「諦める」必要はありません。相手の「逆ギレ」に惑わされず、冷静かつ着実に回収を目指すためのロードマップを整理しました。
1. 証拠の整理(柏木さんの「武器」を確認)
今の状況なら、法的に柏木さんが勝てる可能性は非常に高いです。以下のものを手元に確保しておきましょう。
- 振込履歴: 銀行の通帳やアプリの送金画面。
- LINEの履歴: 「来月返すね」というメッセージは、借金であることの決定的な証拠です。
- SNSの投稿: 「返済能力があるのに返していない」証拠として、念のためスクリーンショットを撮っておきましょう。
2. 「内容証明郵便」で本気を見せる
LINEでの催促を無視されたり、「もらったものだ」と開き直られたりする場合、「内容証明郵便」を送るのが最も効果的です。
- メリット: 郵便局が「いつ、誰が、どんな内容を送ったか」を公的に証明してくれます。相手に「柏木さんは本気だ」「もう逃げられない」という強いプレッシャーを与えられます。
- 伝え方: 「〇月〇日までに指定の口座に振り込んでください。期限を過ぎる場合は、法的手段(支払督促や少額訴訟)に移行します」と事務的に記載します。
3. 法的手続き(裁判所を通した解決)
内容証明でも動かない場合、以下の手続きがあります。
- 支払督促: 裁判所から相手に「払いなさい」という督促状を出してもらう手続き。相手が反論しなければ、そのまま財産の差し押さえが可能になります。
- 少額訴訟: 60万円以下のトラブルを、1回の審理で解決する手続きです。柏木さんご自身でも比較的簡単に進められます。
4. 柏木さんの心を守るためのアドバイス
「3,000円が細かい」といった言葉は、返せない自分を正当化するための相手の「甘え」に過ぎません。柏木さんは一円も悪くありません。
これ以上、直接言い合っても精神を削られるだけです。今後は「内容証明に書いた通りだから、期限までに振り込んでね」とだけ伝え、感情の土俵に乗らないことを意識してみてください。
いかがでしょうか。なかなか頼もしいアドバイスのように見えますが、ここからが本題です。 このAIのアドバイスには、専門家ならば考えるはずの視点が抜けています。その視点について、ここからひとつづつ見ていきます。
視点1:回収可能性
AIは「勝つこと」を重視していますが、目的はお金を返してもらうこと。 裁判に勝って判決を得ても、相手が任意に支払わなければ、強制執行が必要になります。 ということは「どうやって現金を回収するか」の目途が立っている必要があります。 例えば、相手の銀行口座の支店名がわからなかったり、勤務先が不明だったりすると、強制執行自体が難易度の高いものとなります。結果として、裁判には勝ったけどお金の回収ができないということもあり得ます。
視点2:コスト
AIが勧める「支払督促」や「少額訴訟」。これらは確かに本人でも手続きしやすいものなのかもしれません。しかし、証拠の整理、書類の作成、裁判所からの連絡への対応、裁判のための時間に加え、裁判手続のための費用も必要となります。そして強制執行もするということになれば、追加の費用と労力がかかります。
視点3:話し合いによる解決の可能性
経験上、AIが得意なのは「法的な正論」のようです。しかし「こちらは全額返してもらう権利がある!」と、正論だけにこだわると、解決が遠のくことがあります。相手が意固地になり、LINEをブロックして逃げてしまうかもしれません。 たとえば「5万円は返してほしいけど、3,000円は今回はいいよ。その代わり今月末までに必ず振り込んで」といった話し合いができれば、損して得取れではありませんが、結果的に低コストでの解決につながります。
まとめ:初動をAIに任せると対応を誤るかも…
AIの回答は、一見すると「これだけで解決できる!」と思ってしまうようなものかもしれません。しかしここまでお話ししたとおり、抜けている視点があります。 経験上、AIは「事務サポートツール」としては優秀ですが、着地点を見越したアドバイザーとまではいえないのが現状です。そのため、初動でAIのアドバイスをそのまま実行すると、解決が遠のいてしまう可能性があります。
…このような記事を書くと「あなたは司法書士だから、自分の存在価値をなくさないために『AIは使えない』という記事を書いているんでしょ?」というご意見がありそうです。 そのような方にこそ、次回の記事を読んでいただきたいのです。
次回はAIに内容証明郵便を書いてもらいます。 どのような文面ができあがってくるのでしょうか。 ぜひお楽しみに。

